某賞に応募しようと思って書き上げました。
身内に「子ども向きじゃないね」と指摘されてしまったこともあり、ボツになってしまいました。
供養も兼ねてこちらで公開します。
このひろいひろいせかいのどこか。あるおうちのやねうらによんたいのロボットがくらしていました。ロボットのなまえは、「ロロ」、「ボボ」、「ツツ」、「トト」です。ころころまあるいかたちをしていて、三十センチくらいのしんちょうをしています。
ロロはみんなのまとめ役。ボボはしんちょうでクールなロボット。ツツはしんぱいしょうであわてんぼう。トトはあまえじょうずなせいかくをつけられています。
ロボットたちは、「ハカセ」につくられました。ハカセのいえでくらしているのですが、やねうらがすきなのでそこによくあつまります。こっそりかくれているようなかんじがして、たのしいのです。
ハカセはいまはこのいえにはいません。あるひ、「ちょっとでかけてくるね」といって、そとにいったきりもどってこないのです。けれどもロボットたちはハカセがかえってくるのをしんじてまっています。
「きょうはひがしにいってみよう」ロロがきめます。
「いや、ひがしはおとといいったよ。みなみへいくべきだ」ボボがいいました。
「どっちでもいいから、はやくいこうよ」ツツはそわそわしています。
「えー、きょうはおうちでのんびりしようよ」トトはめんどうくさそうです。
「じゃあとりあえずそとにでよう。それからじゃんけんできめるんだ」
「「「はーい」」」」
ロロのていあんにみんなさんせいしました。
いえからでると、あさひがロボットたちをあかるくてらしてくれます。ロボットたちはくうきをすいませんが、きっといまのじかんのくうきはとてもきもちがいいでしょう。
あたりにはだあれもいません。しーんとしずまりかえっています。
「じゃあ、じゃんけんしよう」ロロのこえがあたりにひびきました。
「「「「さいしょはグー」」」」みんなでてをのばしたそのときです。どこからか「クゥーン」というおとがきこえました。とてもちいさいおとでしたが、ロボットたちのこうせいのうなセンサーがそれをひろいました。
「わわわ、こんなおとがきこえるのはめずらしい」ツツがおどろきます。
「ぶんせきけっかでは、としをとったいぬのなきごえだな」ボボはれいせいにいいました。
「きこえるほうにいってみようよ」トトはウキウキしています。
「じゃあみんな、いぬをさがすことにしよう!」ロロがこえをあげると、みんなは「「「おー!」」」とだいさんせい。
いぬをおどろかせないように、おとがしたほうへなるべくゆっくりちかづきます。そろりそろり。しげみのおくへとすすむと、そこにいたのはボボがいったとおりおとしよりのいぬでした。ロボットたちをみても、「クーン」とさみしげになくだけで、にげようとはしません。くびわはついているけど、リードはついていませんでした。
「きっと、ボーダーコリーというけんしゅだろうな」ボボはしっているいぬのデータとてらしあわせてしらべたようです。
「ねえ、けがしてない?」トトがきづいたとおり、そのいぬはみぎまえあしにすりきずをつくっていました。
「かわいそうだ。うちにつれかえっててあてしてあげようよ。みんなでせおってかえればいいよね」ツツがそういうと、みんなはじかれたようにうごきだします。いぬをそっともちあげていえまで、そろーりそろーりはこびました。
おうちにぶじつきました。さっそくいぬのちりょうかいしです。ひごろからじゅんびしておいた、ろかしてしゃふつしたあまみずできずぐちをあらい、ハカセがつかっていたタオルできずぐちをしばりました。おうきゅうしょちはかんりょうです。
「これでひとあんしんだな」ロロはホッとしました。
「ねえ、いぬになまえをつけようよ。ぼくは『つるこ』がいいとおもう!」ツツがそういうと、ほかのロボットたちもじぶんがかんがえたなまえをつけたがりました。
いろいろはなしたけっか、いぬのなまえは「ダーちゃん」になりました。ボーダーコリーなので、「ダー」のじをとって、メスなので「ちゃん」をつけたのです。ボボがつけたいといったなまえでした。
「ダーちゃんのために、エサをさがさなきゃだね」
「さすがロロ。すっかりわすれてたよ」ツツはいきものはなにかたべないといけないことをおもいだしたようです。
トトがダーちゃんのそばでみまもっているあいだ、ロロ、ボボ、ツツはそとにでていぬのえさをさがしました。あきやにいくつかはいると、しょうみきげんがぎりぎりきれていないドッグフードがひとふくろと、かんづめがごこみつかりました。これでしばらくダーちゃんはたべるのにこまらなそうです。
ダーちゃんは、ちょっとずつげんきになっていきました。あしのきずはふさがって、はしりまわれるようになったときは、ロボットたちはみなよろこびました。ドッグフードをみつけたいえにあったフリスビーで、ロボットたちとあそんだりもします。
ダーちゃんのけなみもなんだかよくなったきがします。ロボットたちのことをペロペロなめてくるので、ロボットたちはダーちゃんのだえきでベタベタによくなります。
「ロロ。ダーちゃんのエサがもうなくなるぞ。どうするんだ?」ダーちゃんにエサをやったばかりのボボがたずねました。
「そうだな……。すこしとおででもして、さがそうか」
「さんせい!」トトはよろこびました。
「でも、でかけているあいだにハカセがかえってきたら、どうしよう?」ツツはしんぱいそうです。
「なに、そんなにとおくにはいかないし、きっとすぐもどってこられる。おきてがみもおいていくし、ハカセならぼくたちをみつけるためのたんちきをもっているはずだ」ロロがじしんまんまんでいうと、みななっとくしたようです。
みんなでしゅっぱつするじゅんびをしました。ロボットたちはなにももっていかなくてもいいけれど、ダーちゃんののみみずと、残りほんのわずかなエサはわすれずにもっていきます。ツツがハカセあてのてがみをかきおえ、キッチンのテーブルにおいたらさあしゅっぱつです!
みんなでひがしへむかうことにしました。ロボットたちにインプットされているちずによると、ひがしにずっとすすんでいけば、まだいったことのないおうちがあることがわかります。ほぼまるいちにちあるくことになるでしょう。ロボットたちはつかれませんが、ダーちゃんのためにきゅうけいをとるつもりです。
こんなながたびははじめてなので、みんなきんちょうしつつもワクワクしていました。
「ねえ、しりとりでもしようよ」トトがはしゃぎながらいいます。
「じゃあ『りす』」ツツがはじめました。
「『すいか』」ボボがつづけます。
「『カメラ』」とロロがいうと、ダーちゃんが「ワン!」となきました。
まるで、ダーちゃんもしりとりにさんかしたがっているようです。ロボットたちにひょうじょうがあったら、きっとみんなえがおになっていたでしょう。
あさにハカセのいえをしゅっぱつして、すっかりゆうがたになるころ。いえが5けんほどたちならぶちいきにたどりつきました。「ごめんくださーい」とこえをかけて、げんかんをコンコンとならしますが、どのいえもあきやのようです。ドッグフードもさがしてみましたが、みつかりませんでした。
「しかたない。こんやはこのいえをかりてひとばんすごそう」
ロロがゆびさしたのは、かべがそらいろをしたおうちでした。ほんらい、いえのひとがいないのに、かってにとまるのはよくないことです。でも、たくさんのひとがいなくなってしまったこのせかいでは、しかたのないことだとロボットたちはおもいます。もちろん、もとのもちぬしのひとへのかんしゃのきもちはもたなければなりません。
「おやすみ」
「おやすみ〜」
「お、おやすみ」
「……おやすみ」
「ワン」
あがったおうちのリビングに、ソファーがありました。そこにみんなでのぼっておやすみします。みしらぬばしょでも、みんながいればさみしくないね。
次の日。そのまた次の日。ロボットたちとダーちゃんは、いぬのえさをもとめてあるきつづけました。けれどもえさはみつかりません。いぬをかっていたひとは、なかなかいなかったようです。
「ダーちゃんがもうなんにちもえさをたべていない。このままじゃあぶないぞ」ボボがこごえでロロにいいました。
「……わかっている」ロロはやっとのことでこえをしぼりだします。
ダーちゃんはなんだかげんきがありません。のみみずもあとすこししかないです。いったいどうしたらいいだろう……ロロがひっしに考えていたときです。
「チャーリー!」
わかいおんなのひとのこえがきこえるとどうじに、ダーちゃんがはしりだしました。「ああチャーリー! いままでどこにいたの?」こえのぬしのおんなのひとがダーちゃんをなで、ダーちゃんはそのひとをペロペロいきおいよくなめました。
「ひょっとして、あなたたちがチャーリーをみつけてまもってくれたの? ありがとう。わたしは『なるみ』っていうの。まえにすこしおでかけしたときに、チャーリーとはぐれてしまって。もうにどとあえないかとおもっていたわ」
なるみとなのったおんなのひとは、ほっそりしたこがらなひとで、やさしくわらいました。
「ダーちゃん、かいぬしがいたんだ。見つかってよかったね」ツツがあんしんしていいました。
「なるみさん。あなたは『ハカセ』をしりませんか?」ボボがいきなりたずねます。
なるみさんは、いっしゅんきょとんとしたあと、すぐにハッとしたかおになりましたが、へんじは「ごめんなさい、わからないわ」でした。
「そうですか」ボボはなんでもないふうにへんじをしました。けれどもロロはしっています。ほんとうはボボはがっかりしていることを。
「ハカセはいないけれども」なるみはあかるいこえでいいます。「よかったらわたしのいえにみんなでこない? うみのみえるすてきなところよ」
「わー! うみだー!」
なるみのうんてんするくるまにのってしばらくいどうすると、うみがみえてきました。はじめてみるほんもののうみに、ロボットたちもこうふんしています。
「あのおかのいっけんやが、わたしのいえよ」
あんないされたのは、ベージュいろでにかいだての、ちいさなおうちでした。リビングは、つりどうぐと、ピアノいがいは、とくにめだったものはありません。
「いえのうらにはたけがあってね。そこからとれたやさいをたべているんだけど、たまにさかながたべたくなるときってあるじゃない? そんなときにつりにでかけてさかなをとるの」
「それはいいですね。ダーちゃん……チャーリーもさかなをもらえるんですか?」
「もちろんよ」
ロロのしつもんになるみはにっこりこたえました。
「ねえなるみさん。ピアノをひいてくれませんか」
ダーちゃんにエサをやりおえたなるみに、ツツはおねがいします。
「いいわよ。それじゃあ……」
こたえてくれたなるみは、ピアノをかなではじめました。かろやかでいて、きもちがあかるくなるような、そんなきょくです。
「すてきなきょくですね。なんというきょくですか?」
「んー。『ハカセにあえますように』のきょくかな。いまこのばでわたしがつくったの」
ロロたちはびっくりしました。なるみがこれほどまでにピアノがうまいとはおもいもしなかったからです。
「わたしはね、もともとはピアニストだったの」
「それでそんなにおじょうずなんですね」
「ほめてもなにもでないよ。……さて、うみにでもあそびにいこうか?」
「さんせーい!」
なるみがせんとうにたち、みんなでうみをめざします。ほんとうにうみがちかくて、ごふんくらいあるいたら、もうつきました。
「ねえ、きいてなかったけど、すなやみずはだいじょうぶなの?」
「すなも、みずも、はいらないようになっています。しんぱいごむようです」
しつもんにボボがこたえると、なるみはあんしんしたようで、ニコッとわらいました。
「ねえ、みんなきてー!」
なみうちぎわでダーちゃんとあそんでいた、トトがさけんでいます。なんだなんだとあつまると、そこにあったのはかみがはいったボトルでした。どこかからながれついたのでしょうか。
「なにかかいてあるのかな」
「はやくあけてみてみようよ」
「ワン!」
「ちょっとまってね」
トトがボトルのふたをあけて、なかのかみをとりだしました。そこにかいてあったのは、「わたしはげんきです。あなたはげんきですか? ハカセ」というもじでした。
「「「「ハカセ!」」」」ロボットたちのことばがかさなります。
「じゃあ、みんな、みじかいあいだだったけどありがとう。げんきでね」
「クウーン」
「こちらこそありがとうございました。おげんきで」
ロボットたちは、なるみとダーちゃんにわかれをつげ、ハカセをさがすたびにでることにしました。かいすいがきたのほうからながれてきているとおしえてもらったので、きたを目指すことにしたのです。なるみとダーちゃんとおわかれするのはさみしいけれど、これもうみのおやのハカセにあうためでした。
ロボットたちはあるきつづけました。はれのひもくもりのひもあめのひもゆきのひもあらしのひも。やまをこえたにをこえかわをこえ。
けれども、だあれにもあいませんでした。もうはんとしがたとうとしていました。
「ハカセはいったいどこなの?」トトがおちこんでいます。
「きっともうすぐそこにいるさ」ロロがはげましますが、トトはへんじをしません。
「ねえ…………。ぼくはなるみさんのところに、かえろうとおもうんだ」ツツははっきりとしたくちょうでいいました。「そうすればダーちゃんともいっしょにいられるし、さみしくない。にんげんのそばでやくにもたてる」
「ツツがかえるなら、ぼくもかえるよ」トトがきゅうにげんきなこえでいいました。よっぽどいまのせいかつがつらかったんでしょう。
「わかった。じゃあきをつけてね。なるみさんとダーちゃんによろしくね」ロロはにたいをおくりだしました。ロロとボボのにたいのたびのはじまりです。
ロロとボボだけになってからいっしゅうかんぐらいがたったでしょうか。おおあめがふってきました。いくらぼうすいかこうがされているとはいえ、ぬれないにこしたことはありません。にたいは、くずれたたてもののしたにもぐりこみました。ちかくに、ほかにあめをしのげそうなばしょがなかったのです。
「ハカセって、どんなひとなんだろうね」ロロがポツリともらします。
「いいひとにきまっている。ぼくたちをつくってくれたんだから」ボボがちからづよくいいました。
「うん。そうだね。きっとそうだ」ロロはなっとくすると、スリープモードにはいりました。
あめがあがり、たいようのひかりがたてもののなかにさしこんできます。ロロとボボはスリープモードをかいじょして、たんさくすることにしました。
「おや、これはいったい……」ロロは、もじのかかれたホワイトボードをみつけました。そこには「こんにちは。げんきですか? ハカセ」とかかれていました。
「ボボ! ちょっときてくれ! ハカセののこしたしるしをみつけたよ」
「なんだって。…………ほんとうだ」
「ぼくたちの進んできたみちは、まちがいじゃなかったんだ!」
「ああ。だんだんハカセにちかづいているよ」
ロボットのボディに、なんだかエネルギーが湧いてきたようなきがします。いままでいじょうにハカセさがしをがんばれそうです。
「じゃあそろそろいこう……」
「あぶない!」
ドン、とボボがロロをおしとばしたしゅんかん、やねがおちてきてボボがしたじきになってしまいました。むりにひっぱったら、ボボのうでがもげちゃいそうです。
「ぼくのことはいいからさきにいけ! あとできっとおいつく!」
「……わかった、きっとだぞ!」
ロロはかなしみをふりほどいて、いったいでかけてゆきました。
ロロはさばくにたどりつきました。すないがいなにもないところを、なんにちもなんにちもあるきつづけます。あるよるのこと、つきをみあげました。ハカセもみているのかな、きれいだとおもっているのかな……ロロはかんがえました。
ようやくさばくをぬけました。おくのほうにこだかいおかがみえます。そこにはちいさいこやがありました。ドアをコンコンとノックして、おじゃまします。なかにはテーブルにいす、せいかつようひんなどがありました。テーブルのうえにはマグカップがあって、なかみはくろいえきたいのようです。
ロロがしばらくボーッとしていると、ガチャリととをあけて、おとこのひとがはいってきました。みちがえるはずもない、ハカセでした。
「おや、おきゃくさんかな?」
「ハカセ! こんなところにいたんですね」ロロはうれしさのあまり、ぴょんぴょんとびはねました。
「……ごめん。おぼえていないんだ。きおくをなくしてしまって……。ぼくは、このこやにすんでいたおじいさんにたすけられたんだ。そのおじいさんはもうなくなっていて、いまはひとりでくらしているよ」
おもっていたのとちがうはんのうで、ロロはなにをいっていいかわかりませんでした。
「きみはぼくをしっているんだね。はなしをきかせてくれないかい」そうハカセがいうものだから、ロロはこれまでのことをぜんぶはなしました。
「そうだったんだね。ぼくがきみを…………。ねえ、よかったらだっこしてもいいかな?」
「どうぞ」
ハカセがそっとうでをのばして、ロロをだきしめてくれました。やさしくなでなでしてくれています。それだけでロロはなきたくなるようなきもちになりました。
「みつけてくれて、ありがとう……」
ハカセのあたたかいこえをききながら、ロロはふかいふかいねむりにつきました。